CZ800C電源修理・・・できなかった。

2013年6月6日、某イベントで働くために動作確認を行なっていたCZ-800Cの電源部から銃声のような音と共に火花が出て、そして沈黙した。
2013年6月8日、不覚にも不動の展示品となる。

後日、分解してみたところ、サイリスタのハウジングが割れて吹き飛んでいた。


もちろんこの部品は交換しなければならないのだが、それで済む話でもない。
サイリスタは突入電流を制限する為のスイッチとして使われているが、通電後はONのままなので、そうそう壊れる部品ではないのだ。
そうなると、他の部品が故障して過負荷がかかったか、ゲート信号のドライブ回路が壊れて中途半端にONになり、内部損失が増えて壊れた可能性もある。

まずはX1全回路図で回路図を確認、って電源の回路図がないじゃん!
この電源にはZEBRAの刻印が沢山あります。おそらくZEBRA製のカスタム発注品で、SHARPでは部品扱いだったかもしれませんが、修理には必要です。
そうボヤいてなにも解決しないので、X68Kの電源回路を参考にしつつ、パターンを追ってある程度は回路を把握します。

さて、困るのは修理後の動作確認をどうやって行うかです。
仮に、いやその可能性の方が高いのだが、故障原因がサイリスタ以外の場合、交換したサイリスタがもう一度故障する可能性が高いです。
ワットメーター付きテーブルタップには1500Wを超えると警告ブザーが鳴るし、そのうちブレーカーも遮断するのだが、定格28WのCZ-800Cが1500Wを超えた時点で、おそらく破壊は完了してしまっている。
電流制限が可能な実験用AC電源があればよいのだが、そんなものは普通のお家にはない。

そこで手持ちの12V 5Aの60W電源->車載用60W ACインバータ->ワットメータ付きテーブルタップという組み合わせで試験用電源にした。

DCアダプタには定格をオーバーすると出力カットする保護回路があるので短絡してもそうそう壊れない。定格28Wに60W電源は容量的にも調度良い。
手持ちのインバータは安物で擬似サイン波は出ないが、すぐ直流に整流するはずなので大丈夫であろう。
壊れかけの状態では効率が落ちて消費電力が増加する事があるのでワットメータもあると便利、スイッチ付きタップタイプを2480円で調達、、安すぎ。

まず、この電源で正常なCZ-800Cが動作するか、消費電力を見ながら試してみる。使用するのはGRAMにFD I/Fが入ったもの。
スタンバイ時、0-1W
メインパワーON、22W
カセット再生、26-27W

電源ON時の突入電流で一度DC電源がシャットダウンするが、数秒後に自己再帰して 問題なく動作する。中間の12Vラインに適当なコンデンサを追加する と一発目のシャットダウンは回避できるが、短絡故障時には部品の過負荷が増えるので、今回はこのまま使う。


壊れたサイリスタは2P2Mで200V 2A、若松通商で求めるがフィン付きがなく、代替えで400V 2Aの2P4Mを入手、電解コンデンサの劣化が原因かもしれないので、ついでに電解コンデンサを1つの除いて全交換。

電源を入れるが出力は全く出ない。
AC入力から信号を追っていくと、サイリスタ出口、一次充電部のコンデンサがチャージされない。
突入電流のブートストラップ用10Ω2Wセメント抵抗を測定してみると、これが断線状態。

10Ωセメント抵抗を交換、手持ちがなかったので、5.6Ω 2Wの直列2本で代用した。

通電すると、元の60W電源がシャットダウンする。何度やってもダメ。
一次充電部のコンデンサの両端を調べたら短絡状態だ。ということは、家庭用電源に繋いでいたら交換したサイリスタがもう一度吹き飛んでいたことだろう。
2006年にPSE問題で中古品が売れなくなると大騒ぎになったが、古い家電製品は結構危険で、道理にかなった事かも。

半導体=ダイオードから順に周辺の部品を外しながら調べていくと、スイッチング用トランジスタQ2のCE間が短絡している。
よく見てみたらQ2のヒートシンク固定用スペーサが溶けて変形したあとがあるじゃないか。



2SC2826なんて入手できないから、代替品を検索・・・この分野はFETに置き換わっていて細い・・・2SC4105に決め、若松通商で入手
ここはQ1,Q2でピンポン動作する所でTr特性が異なるのは気持ち悪いため2つとも交換した。ついでに絶縁用シートも放熱効果の高いシリコン製に交換。

通電してみると、5Vサブ電源OK、5Vメイン電源OK、13.8Vカセット用電源OK

CZ-800Cに組み込んで通電・・・IPL表示

待機時・・・0W
メイン基板のみ・・・19W
カセット再生・・・23-24W
GRAM追加・・・22W
さらにカセット再生・・・27-28W
拡張スロットにFD I/FとFM音源を追加・・・26W
さらにカセット再生・・・32-33W

消費電力も正常動作品と同等で、どうやら修理できたっぽい。

交換した電解コンデンサの容量を全てしらべてみたが、一次側初段のデカイやつが12%減少してる以外は正常値だった。
しかし高電圧時の漏れ電流が増加している可能性もあるわけで問題が無いとは言い切れない。


エージングテスト

カセットの早送りを30分動かし、停止して巻き戻しを開始したところで元電源がシャットダウンした。
電源は触れないほど発熱している。電源再投入するとカセットのイジェクトでまた電源がシャットダウン。

そういえば最初に故障した時も早送り中、電源に近いスロット1,2にFD I/FとFM音源ボードを刺していた。

電源を十分冷ます。
消費電力測定・・・26W
カセット再生・・・32-33W
カセット早送り・・・35-36W
カセット巻き戻し・・・35-36W

たしかに早送り、巻き戻しが一番電力を食うようだ。

FD I/FとFM音源ボードを電源から遠い拡張スロット2,3に移動、本体のフタも閉めて再テスト

カセット早送り・・・35-36W

20分後にX1の電源が突然シャットダウン。元電源は通電している。
冷ましても、もう電源が入らい。

分解して信号を追いかけると、一次充電とサブ側5Vは生きている。
メイン電源を入れるとメイン5Vと13.8Vが途中まで上昇して、すぐにシャットダウンする。
スイッチングパルス信号は、故障したQ2側は出ている、Q1側は・・・パルスが出てない。
追いかけて行くと、Q2側のタイミング用のパルストランスT2の2次側(電源としては一次側)の4ピン全てが断線してます。

T2とT3はプラスチックの側と一体化したカスタムパーツです。取り外してみると...

フルモールド!こいつは流石に分解できません。

タイミングパルス発生をフォトカプラに置きかえる方法はあるが、それはもう修理ではなく改造になるのと、再始動で別の場所が壊れた可能性もあるので、この電源は一旦諦めることにします。

最後に、故障プロセスだけ解明しておきます。

1.T2のタイミングトランスがなんらの原因で断線した。
 この機体はダンボール1枚という危険な梱包で輸送された経緯があるので、その時の衝撃かもしれない。
2.本来Q1、Q2でピンポン動作するところ、T2の断線でQ1の2SC2826は停止、Q2の2SC2826が一人で駆動する状態になった。
3.FD I/F+FM音源+カセット早送りで負荷が増し、Q2はQ1の分も一生懸命給電し、発熱し、スペーサを溶かし、そしてジャンクション温度に達してC-Eを短絡して果てた。
4.C-E間短絡で、一次充電部の+144Vが短絡、サイリスタ2P2Mに大電流が流れ、破裂して絶縁した。
5.今度はブートストラップ抵抗10Ωに大電流、瞬時に500Wくらいの電力がかかり、熱溶解して断線した。
6.沈黙

AC100V電源は連鎖的に壊れるし火を噴くから恐い。でも本当に恐いのはブラウン管の高圧感電ですね。

今回の収穫は、実験用AC電源を思いついたことだけ。